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「ピッケのつくるえほん」ワークショップ@豊橋


8月24日土曜日、豊橋市中央図書館の自主事業として、外国ルーツのご家族が多く暮らす地区へ出かけてきました。今年度になって3回目、通算で6回目です。

テーマは「○○のひみつ」。いつものように伊藤孝良 元図書館長の読み聞かせからスタート。司書の田中さんが揃えてくださった「ひみつ」絵本の中から、難易度や長さを考慮して「シロクマくんのひみつ」を。ここから着想を得た作品もありました。

小2女児は「おねえちゃんのひみつ」、友だちの家へ行くと偽って、弟の好きなオモチャを買いに出かけプレゼント。「どうぞ」「ありがと」。
小2男児は「おぉきなはんばーがー」、ドアの向こうに隠してあった巨大ハンバーガー(まあくんの大きさと比べてみてください↓ )。裏表紙では「あうっ!」とかぶりつく音を録りました。上手いです。

テキストも録音も母語のみになっている子について、キーワードだけでも日本語に挑戦してもらおう、というのが、今回の密かな目標でした。
継続参加してくれている10歳と6歳の兄妹は、お兄ちゃんはブラジル人学校、妹さんは未就園、家庭でも母語のみです。ふたりとも日本語はほとんど解さないので、いつも自治会の舛木さんの通訳に頼っています。今回お兄ちゃんがつくったのは「うっきーのドーナツ」。完成したポルトガル語のお話に、要所のみですが日本語も併記、録音も部分的に日本語でがんばりました。
美味しそうなまんねんさんのドーナツ。でも「食べないで!」。なぜなら、食べると小さくなってしまうのです。

過去2回は録音をしなかった6歳の妹さんも、母語ではあるものの初めて録音までできました。上映時も嬉しそう。

生まれるお話は基本的にはフィクションですが、実生活や本人の心情が覗き見えてくることもあります。

「あめのひのひみつ」3年生女児 (全9見開きからの抜粋)
雨がほんとは嫌いなのに、友だちに合わせて「ぼくも好き」と言ってしまった。「ごめんなさい、許して」と謝るが「考えとくね」と言われてしまう。裏表紙は「許してくれるかなぁ」。

毎回「(録音の再生ではなく)自分の声で発表したい」という4年生女児。今回もその姿勢を貫きライブで立派に発表しました。

午後の県営岩田住宅は、開始時刻の30分も前から集まってきてくれました。一方、午前の市営西部住宅は、今回も家庭教師状態。いちど途切れてしまった状態からどう立ち直すかは課題です。

翌25日は、名古屋大学大学院小川明子研究室によるデジタル・ストーリーテリング「メディア・コンテ」。初の試みです。通常は写真やビデオでするところを、今回はピッケで。場所は前日と同じ県営岩田住宅の集会所。前日も参加してくれた子が3人、はじめて来てくれた子が3人。
外国ルーツの方がファシリテータとなり、子ども1人に1人ずつ付きました。
お題カードをきっかけに話しつつ、その子の中の関心事を浮き彫りに。

そうして見つかった「話の種」からお話を紡ぎます。なので、いつものピッケとは異なりノンフィクションとなります。
私は、フィリピンルーツの4年生男児を担当しました。日本に来て未だ2年とのこと。他のファシリテータは母語と日本語ができるのに、私は日本語のみゆえ申し訳ない。通じない単語は、お互い絵に描いたりしながら。放課後の校庭でするバスケットボールが好き。回転ジャングルジムがあるK公園より、大勢の友だちと鬼ごっこができるT公園の方が好き、たとえお母さんの言いつけに背くことになろうとも。公園も学校も友だちがいっぱいいるから楽しい。ということで、題名は「ともだちいっぱい!」。

これまで母語のみになっていた前述のブラジルルーツの兄妹が、自らすすんで、文章も録音もすべて日本語でつくりました。
10歳のお兄ちゃんは、柔術で金メダルをとるおはなし。時々お手伝いしてくださるブラジルルーツの青年ブルーノさんが付いてくれました。
6歳の妹さんは、最初は日本語は無理と言っていたけれど、途中で「日本語で書きたい」と自分から申し出たそう。日本語をがんばったことを、小川明子先生にほめてもらったことが嬉しくて、そのことをお話にしました。作中、先生と手を繋いでいて、裏表紙では「せんせいだいすき!」。

初の日本語絵本を完成させた後も、もっと書きたくなって、お手本をなぞり書きしていました。

付いてくださったブラジルルーツの川崎さんは、ロールモデルとして語っていただく役割でお願いしたのですが、ファシリテータとしても抜群でした。小川さんも、明るく快活な全体進行をしつつ、子どもたちをどんどんほめます。おふたりとも、子どもの気持ちに寄り沿い、やる気を引き出してくれました。母語できるファシリテータは重要です。

この兄妹のことが、ずっと心にかかっていました。
母語のみになっている他の子たちは、岩田小学校へ通っているので、学校では日本語を使っているし、仲良しの同級生がいて、まだなんとかなります。しかし、この兄妹は学校もブラジル人学校なので(妹さんの進路は未定)兄妹で閉じてしまいがちですし、日本語を使う機会もほとんど無くて、はたしてどうやって日本語に親しんでもらおうかと。それが、小川さんや川崎さんのおかげで、日本語で書きたい気持ちと弾ける笑顔が引き出され、できた喜びに満ち溢れていました。ほんとによかった、私も嬉しい!

デジタル・ストーリーテリング「メディア・コンテ」(名古屋大学小川研主催)は、今年度あと2回開催の予定です。
定例ピッケの次回は9月23日(月曜、祝日)、午前は西部住宅、午後は岩田住宅です。