フェローを務めるCANVASのコラムで「デジタルとこども」のお題をいただき、書いたものです。許諾いただき転載します。
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このコラムを担当させていただくのは2回目です。
1回目では、子どもたちとコンピュータの最初の出あいを幸せにしたいと願いつくったインタラクティブ絵本「ピッケのおうち」について書きました。あれから6年、さらに試行錯誤を続け、おはなしづくりを体験できるソフト「ピッケのつくるえほん」を開発、2008年から子どもあるいは親子を対象にワークショップを行っています。
ワークショップのテーマはその回ごとに様々ですが、共通するのは、贈る相手を決めてつくること。お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、妹や弟、引越していった友だち。なかには、自分にあげるという子も。それもまた良しです。
いっしょに操作方法を練習したら、いよいよおはなしづくりをスタート。幼児クラスは実に賑やかです。おはなしが次々口からこぼれ出て、聞き取って代筆する大人のスピードが追いつかないほど。小学校中学年くらいになると、集中。静寂の中もくもくと作ります。何度もプレビューして、さいごまで筆を入れて。
「できあがった絵本は、決めた相手に必ず読んでからプレゼントしてね。」約束をしておしまいです。
おはなしづくりワークショップには3つのステップがあります。
1)画面上にキャラクタやアイテムを配置して物語をつくる。
2)物語を紙の絵本として、自分の外へ取り出す。
3)絵本を手に、あるいは大画面で共有し、物語を語り分かち合う。
1)は主にひとりで行う創造活動、3)は物語を介して他者と繋がる活動です。
まず活動全体をデザインして、その中で、ICT(デジタル)が向くところにICTを使っています。すなわち、物語を紡ぐ試行錯誤と大画面での発表にはICTを、物語の外化には手にとり触れることができる紙の絵本を利用しています。
また、装飾的な演出や過剰な機能を避け、わかりやすく使いやすいデザインを心がけています。
日がとっぷり暮れるまで原っぱを駆け回り遊ぶ、時間を忘れ夢中で本を読みふける、そんなただひたすら楽しくてしかたなかった子ども時代の思い出が、誰にもあるのではないでしょうか。
想像の世界で心を解き放ち遊ぶことは、子どもの心を楽しみで満たします。言葉と絵で(絵本において絵もまた言葉です)物語を紡ぎながら、言葉の深い喜びを味わいます。つくった物語を自分の声で語り、人に聴いてもらうことも、嬉しく誇らしいものです。大切な人から認められることは、存在を祝福されること。祝福されている子どもは、自分を大切にし、人を信じることができます。こうして心の奥底にしっかり育った安全基地は、先の人生でも、見えないところで子どもたちを支えてくれることでしょう。
また現代の社会では、食べる物も着る物も、生産者と消費者が分かれてしまっています。子どもの生活に身近な絵本をつくることで、いつでもその境界を越え「つくる側」に回れるのだということを経験できます。
明治以降、社会も基幹産業も大きく変わりました。しかもその変化のスピードは、どんどん速まっています。例えば子どもの頃に「将来したい仕事」を書かされましたが、大人になった私が就いた職業は当時存在していません。ましてや、今の子どもたちが大人になったとき、どんな社会になっていて、どんな職業に就くかなんて、誰にもわからないのです。
これまで通りのやり方では通用しない。うすうす気づきながら直視せずにきたことが、3.11の震災をくぐり、白昼にさらされた感があります。子どもたちの生きる未来は、これまでとはまったく異なります。そこに、悲観や不安ではなく、希望の萌芽を見たいのです。
2月と5月、CANVASの皆さんにお任せして「キッズクリエイティブ研究所」ワークショップがありました。5月は、当初3月だった予定が震災のため延期になっての開催でした。
届いた約60本ずつの作品ムービーを見るうちに、震災後くもりがちであった心に、明るい光が射しこみました。子どもたちのおはなしに、ありがとう、いいよ、だいすき、うれしいといった素直な言葉と豊かな物語があふれていたのです。子どもたちの描く世界は、なんとまぶしく喜びに満ちていることか。とても嬉しく頼もしく感じられました。大丈夫、私たち大人は、子どもたち皆に生来備わったこの性質を、機会と場をつくって伸ばしてやりさえすればいいのだと。
自分を肯定し人を信頼できる、知りたい学びたいという気持ち、無ければつくる、人や社会と繋がる。そんな態度や姿勢を身につけることが、これからの子どもたちに、いちばんオールマイティに有効だと思っています。それは成績をあげる為なんていうちっぽけなことでなく、子どもたちが幸せになること、やってみたいことが思うままできるよう自由度をあげることになるでしょう。
「言霊の幸わう国」と古よりうたわれた豊かな日本語の言葉の中に、私たちは生まれました。言葉は単なる道具ではなく、人の内面をつくります。人と人とを繋げます。
ICTは、その両方、つくることと繋げることのサポートが得意です。ICTをうまく使った言葉と物語の創造・表現活動を通して、子どもたちの心に安全基地を育てたい。その一助になりたくて、私も「つくる」を続けます。
楽しみな未来へ、子どもたちに存分に羽ばたいてほしいと願っています。
<関連リンク>
「ピッケのつくるえほん」パソコン版に加え、iPadアプリもリリースしました!
http://www.pekay.jp/pkla/ipad
「ピッケのおうち」パソコンのブラウザ上で遊べます。(ご利用無料)
http://www.pekay.jp/house/